『アロペシアX』とはポメラニアンなどの特定の犬種に発生する原因不明の脱毛症です。
アロペシア=脱毛症を意味します。ほかにも『偽クッシング症候群』『ポメラニアン脱毛』などの別名で呼ばれることもあります。
・どんな症状が出るの?
主な症状は痒みを伴わない脱毛です。特徴的なのは、左右対称性に体幹部や尻尾が脱毛する一方、頭と四肢の毛は脱毛せずに残るということです。脱毛した部分の皮膚は色素沈着によって黒くなり、乾燥によってカサカサしたハリのない状態になります。
皮膚の検査や血液検査では異常は見られません。
発症する時期は主に若齢で、多くの症例では1歳から3歳で発症します。
・原因は何?
はっきりとした原因は不明です。
中にはホルモン治療などに反応して改善する症例もいるため、ホルモンバランスの崩れなどが疑われています。
しかし、症例によって避妊・去勢手術で改善する場合もあれば、それがきっかけで発症する場合があったり、ステロイドホルモンを抑制する薬やメラトニンに反応する場合もあり、詳しい病態はまだまだ未知の病気です。
アロペシアXは特定の犬種に発症しやすい傾向があります。
ポメラニアンは有名ですが、他にもチャウチャウやサモエド、シベリアンハスキー、アラスカンマラミュート、パピヨン、シェットランドシープドック、トイプードルなどにもみられます。
そのため、原因には遺伝的な背景があるのではないかとも考えられています。
・治療方法はある?
原因がはっきりしないため、治療も様々です。
病院によって方針が違うと思いますが、基本的には命に関わる病気ではないので、安全性の高いものから試してみることが多いようです。
原因の部分でも少し触れましたが、避妊・去勢手術によって改善する場合があります。
避妊・去勢手術には将来的な生殖器の病気を予防する、という大きなメリットもありますので、若くて元気なうちに考慮してあげるといいかもしれません。
しかし、残念ながら手術直後に発毛がみられた症例でも再発してしまうことがあります。
そのほかの治療としてはメラトニンというホルモン剤を補給する治療などがあります。
メラトニンはヒトでも不眠症の治療などに割と安全に使用されるサプリメントとして知られていますが、体の中で生体リズムを整えるために必要なホルモンで、動物では日照時間の変化に反応して起こる換毛などに関与していると考えられています。
効果のほどは様々で、発毛がみられる場合もあれば、全く変わらない場合もあります。
その他のもう少し積極的な治療としては、体内のステロイドホルモンの合成を抑えるような治療が行われる場合もありますが、ホルモンの低下症に気を付ける必要があります。
そこまでの治療をするのか、するのであれば定期的に病院での血液検査を行えるのかどうかを事前によく考え、相談しておきましょう。
脱毛した部分の検査のために皮膚組織を一部採取したり、けがをして傷ができるとそこだけに発毛がみられるということがあります。
これは、休止期に入ってしまった毛包が刺激によって活性化し、発毛につながっていると考えられています。
これを利用して、マイクロニードルという細い針で皮膚を刺激して発毛を促す治療もあるようですが、細くても針なので、局所麻酔などが必要になります。
脱毛部分は毛による保護がない分、外界からの刺激により強くさらされていることになります。
清潔を保つことはもちろん、適度に服を着せるなどして、温度調節や外界からの刺激から保護し、また保湿効果のあるシャンプーや保湿剤、サプリメントなどで皮膚の健康状態を守るように心がけてあげましょう。
被毛色脱毛症とは、特定の色の毛だけに脱毛が起こるというものです。
被毛色脱毛症には大きく以下の2つがあります。
・淡色被毛脱毛症…ブルー、シルバー、グレー、フォーンなどの希釈色(淡色)の毛をもつ犬種での発生が多い脱毛症
・黒色被毛脱毛症…黒色の毛の部分のみで起こる脱毛症
・どんな症状がでるの?
淡い色の被毛だけ、あるいは黒色の被毛だけが脱毛する、痒みや炎症のない脱毛症です。
生後数か月から発症し、脱毛が始まった部分の色の毛がすべて脱毛するまで進行します。
症状は脱毛だけで、ペット自身には体調不良などはなく、あくまでも見た目だけの問題です。
・原因は何?
この脱毛症は遺伝性であることがわかっています。
毛の発生や毛の色の発色に関わる毛包とメラニンの異常によって被毛の形成ができなくなることが原因とされています。
毛を数本抜いて顕微鏡で検査することで、毛の根元や毛の中のメラニンに異常があるかどうかを簡易的に調べることができます。
好発犬種は以下の通りです。
淡色被毛脱毛症:ドーベルマン、ヨークシャーテリア、ミニチュアピンシャー、パピヨン、チワワ、ダックスフント、ボストンテリア、シェットランドシープドック、トイプードル、ニューファンドランド、バーニーズマウンテンドッグなど
黒色被毛脱毛症:ボーダーコリー、キャバリア、ジャックラッセルテリア、ビーグル、バセットハウンド、パピヨン、ミニチュアピンシャー、チワワなど
・どうやって治療するの?
効果的な治療法は残念ながら報告されておらず、完治することはありません。
アロペシアXと同様に、メラトニンの投与で若干の発毛がみられる症例もあるようですが、すべての症例に効果があるとは言えないようです。
脱毛症状以外には問題はないため、脱毛部の保湿など、スキンケアに気を付けながら生活していく分には、ペット自身には何の不自由も不快感もありません。
ただし、遺伝する可能性が高いため、繁殖をすることは避けた方がいいでしょう。
パターン脱毛もまた原因不明な脱毛症の一つです。
犬種によって特徴的な部位に脱毛を起こす脱毛症です。
・どんな症状がでるの?
左右対称性に鼻・耳の周囲・足・尻尾・体の腹側に脱毛が起こります。ほかの脱毛症同様、炎症も痒みもありません。
性成熟期である6カ月ころから発症し、年齢とともに脱毛が進行します。残っている毛は割としっかりしていて簡単には抜けません。
犬種によって発症しやすい部位があります。
・ヨークシャーテリア…鼻・耳の外側全体・足・尻尾に脱毛が起こり、色素沈着によって黒光りしたような状態になります。
・ダックスフンド、チワワ、トイプードル、ボストンテリア、イタリアングレーハウンド、ミニチュアピンシャーなど…耳の外側全体の脱毛と色素沈着のみ起こる場合、あるいは耳の根元付近、首の腹側、胸~腹部、内股の尾側に複数個所起こる場合があります。
・原因は何?
遺伝性の可能性が高いとされていますが、正確なメカニズムは不明です。他の脱毛症同様、命に関わる病気ではありません。
・治療はできる?
この脱毛症もメラトニンが効果的な場合があるといわれていますが、どの程度の効果があるかは症例によって様々です。
実際には治療せずに様子を見ることがほとんどです。
心因性脱毛とは、過剰に舐めたり掻いたりすることによっておこる自虐性の皮膚疾患です。
不安感などから過剰に毛づくろいをすることが結果的に脱毛を招いてしまう病気ですが、実際に痒みがあるのか、そうでないかはペット自身にしかわからないため、なかなか判断の難しい病気です。
神経質な犬や猫で発症の多い脱毛症です。
・特徴的な症状はある?
背中や鼠径部(内股)、お腹、四肢の先端などに左右対称性の脱毛が起こります。
皮膚には炎症などは起こっておらず、脱毛部分の毛は抜けたのではなく、皮膚の近くで短く切れた状態になっているのが特徴です。
しかし、長期間放置してしまうと、持続的な刺激で皮膚に炎症や傷ができ、他の病気との鑑別が難しくなってしまいます。
特に猫は舌に突起があるため、毛が薄くなった状態では皮膚に傷を作りやすいといえます。
・原因は何?
主な原因は環境の変化や身体への刺激による不安、強迫性障害など、精神的な要因が関与しています。
引っ越しや、家族構成の変化(赤ちゃんが生まれた、かわいがってくれていた家族が家を離れたなど)、新しいペットを招いた、などの環境変化が背景にあることが多くなります。
・診断は難しい?
他の感染症やアレルギー・アトピー性皮膚疾患がないかを1つずつ除外して診断します。
ここまではほかの脱毛症と同じですが、難しいのは痒みの有無の判断です。
それを判断するためにはまず皮膚の検査をしっかりと行い、感染症がなければ除去食試験(アレルギーの原因になる成分をあらかじめ除去あるいは分解してある食事に変えることで、食物アレルギーかどうかを調べる検査)でアレルギーの可能性があるかどうか、数週間観察します。
除去食試験にも反応しない場合は、心因性脱毛を疑い、投薬治療を行います。
・治療はどうやってするの?
環境変化の中で改善可能なものがあれば、まずそれを行います。
例えば新しく招いたペットと一定期間隔離する、落ち着いて休める場所を作ってあげる、スキンシップなどでストレスを発散させてあげる、などが挙げられます。
それでも症状が残る場合の治療には行動治療薬(内服薬)が用いられます。
お薬の種類や量はその症例ごとに調整され、症状が改善すれば徐々に減らして、やめることも可能な場合があります。
ここではペットに起こる原因不明の脱毛症の一部を取り上げましたが、脱毛は感染や体調不良の一症状として起こる場合もあります。
換毛期でもないのにいつもより毛が抜ける、気づいたら一部分だけ脱毛していた、などという場合には、とりあえずかかりつけの病院に相談してみましょう。
今回お話しした脱毛症は、あまり命に関わるタイプの病気ではありませんが、上手に付き合ってあげないと弱くなったスキンバリアから感染などの二次的な疾患を招いてしまうこともあります。
保湿剤やサプリメント、服での保護など、上手に付き合っていけるよう工夫してあげましょう。