ニキビダニ症は動物の毛根部に寄生するニキビダニ(毛包虫)というダニによっておこる皮膚病です。
毛包虫症やアカラスなどとも呼ばれ、犬の皮膚病の中でも割と多くみられる病気です。
犬ほどではありませんが、猫でもたまに起こることがあり、ハムスターやフェレットなどでも発生します。
ニキビダニは、無症状の健康な動物の皮膚にもともと少数は寄生している常在生物です。
動物の出生直後に、母から子へ感染が起こるとされています。
動物だけでなくヒトにも寄生していますが、動物種によってニキビダニの種類が違うため、発症した動物からヒトにうつったりすることはありません。
肉眼では見えないほど小さなダニで、毛包やその近くにある皮脂腺や汗腺に寄生して皮脂や毛包の残渣を食べています。
皮膚に常在するダニなので通常は無症状ですが、何らかの原因で皮膚の免疫バランスが崩れるとニキビダニが異常増殖し、皮膚症状を発症します。
発症の原因は様々です。
遺伝的な要因や皮膚の状態などの要因が重なり合って起こるといわれていますが、その他には、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などのホルモン疾患、糖尿病、リンパ腫などの基礎疾患があったり、免疫を抑える薬の投与、発情や妊娠などがきっかけとなって起こる場合もあります。
通常は若い動物で起こることが多い皮膚病ですが、成熟してから発症する場合には、このような基礎疾患が関与していることが多いのではないかと考えられています。
犬では遺伝性の要因があると言われています。
オールド・イングリッシュ・シープドック、コリー、アフガンハウンド、ジャーマン・シェパード、コッカー・スパニエルなどの犬種では遺伝的に好発傾向を持つ犬種として知られています。
その他、皮膚病を発症しやすいシーズーやダックスフントなども比較的発症が多い犬種です。
猫のニキビダニ症はあまり多くありませんが、基礎疾患があると起こることがあります。
ニキビダニ症は発症する部位や年齢によって少しタイプが分かれます。
一般的には皮膚の赤みや脱毛が起こり、痒みによって掻いたりかじったりします。
病変が一部分だけに限局して起こるものは局所性ニキビダニ症、全身に広がっているものは全身性ニキビダニ症といわれ、発症年齢や治療方法、治療経過が少し異なります。
・局所性ニキビダニ症
1歳未満の若い動物での発生が多く、体の一部に小さな脱毛を起こします。
口の周りや顔、四肢などに2~3cm程度の脱毛や赤みとして起こることが多いのですが、あまり強い痒みを起こさず、特に治療をしなくても1~2カ月ほどで自然治癒します。
・全身性ニキビダニ症
全身の5か所以上に病変がみられたり、体の広範囲にわたって症状がみられるニキビダニ症です。
1歳未満で発症する若年性のものと、大人になってから発症する成年性のものがあります。
局所性のニキビダニ症と同じく、全身性でも若年性のものは半数近くが自然治癒しますが、成年性のものは自然治癒することは少なく、治療が必要です。
症状は皮膚の赤みや、局所的な脱毛から始まり、進行して広がると大きなフケ(鱗屑)がたくさん出るようになり、炎症や二次感染によって皮膚がただれて化膿し、瘡蓋ができることもあります。
毛穴部分は角栓が詰まってボコボコになることもあり、進行するにつれて広範囲に毛が抜け、痒みのために頻繁に掻くようになります。
炎症が長期間続くと、皮膚が色素沈着によって黒くなり、分厚く肥厚して硬くなってしまいます。
イングリッシュ・ブルドッグやフレンチ・ブルドッグ、パグなどの短頭短毛種は全身性のニキビダニ症になりやすいといわれています。
その他、ウェスト・ハイランド・ホワイトテリアやジャーマン・シェパード、ダックスフントなども全身性毛包虫症になりやすい犬種です。
診断は一般的な皮膚の検査で割と簡単にできます。
皮膚の検査には、テープで皮膚の表面をペタペタと採取する検査や、皮膚の表面をオイルなどで濡らし、それを掻き取って顕微鏡で観察する検査(皮膚掻把検査)、毛を少し抜いて顕微鏡で観察する検査などがあります。
ニキビダニは皮膚の少し深い部分である毛包に寄生しているため、検査のために皮膚を少し強く掻き取る必要があります。
時には検査によって少し血がにじんでしまう場合もありますが、正確な診断のためには少しだけ我慢してもらう必要があります。
これらの検査によって異常に増殖しているニキビダニが確認できれば、治療に移ることができます。
局所性の場合では一度の検査ではニキビダニが見つからない場合もありますが、検査を繰り返すことでほとんどが診断できます。
皮膚の検査と同時に調べないといけないのが、なぜニキビダニ症になってしまったのか、という点です。
先にもお話しした通り、成年性のニキビダニ症は基礎疾患や投薬が原因となって、皮膚の免疫が落ちたことによって発症することがあります。
そのため、全身状態をチェックする血液検査やホルモン検査を行い、基礎疾患がないかどうかを調べます。
また、他の病気の治療のために、免疫を抑えるステロイド剤などを服薬している場合には休薬する必要があります。
局所性のニキビダニ症が疑われる場合は、すぐに治療をせずに自然治癒するかどうか様子を見ることがあります。
若い症例で、一か所だけに脱毛を起こしているような場合は、1~2カ月で自然に治ってしまいます。
全身性のニキビダニ症の場合は自然治癒は難しいため、内服薬や外用薬、シャンプーによる洗浄、薬浴などを併用して行います。
内服薬での治療には、いくつかの種類の抗寄生虫薬が処方されます。
どのお薬を使うかは病院によって違いますが、イベルメクチンというお薬はコリー系の犬種(コリー、シェルティー、オーストラリアンシェパードなど)で中毒症状を起こす場合があるので注意が必要です。
中毒を起こす要因は遺伝子にあり、遺伝子検査によってあらかじめ調べることもできますが、一般的にはコリー種ではイベルメクチン以外のお薬で治療を行います。
また、内服薬によって治療効果が出にくい場合や、内服が難しい場合は、定期的に病院でお薬を注射する方法もあります。
ニキビダニ症の場合は、多くの場合で膿皮症を合併しています。
そのため、シャンプーを抗菌シャンプーに変更したり、または毛包を洗浄する効果のある薬用シャンプーに変更することで治療効果が出やすくなります。
皮膚をシャンプーできれいに保つことは治療に必要なことですが、皮膚の状態があまりにも悪い場合は、シャンプーによる刺激が悪影響となる場合もあるので、初めは低刺激のものを使用する場合もあります。
どのようなシャンプーが適しているのかは、かかりつけの先生に相談しましょう。
薬浴にはアミトラズという寄生虫駆除剤を使用します。
病院で処方された薬浴剤を自宅でお湯に混ぜて薄め、そこに患部、または全身を浸すことで薬浴します。
この薬浴剤は非常に臭いが強いため、密閉された部屋で行うと、飼い主さんも動物も具合が悪くなってしまいます。
換気を十分に良くして行うようにしましょう。
お薬を溶かすお湯の量や、薬浴する時間、頻度などは病院からの指示を守ってください。
あまり薄めすぎたり、時間が短いと十分に効果が出ません。
毛が長い場合は、薬浴剤をしっかり浸透させるために毛を短くすると効果的です。
薬液を舐めてしまうと具合が悪くなってしまうことがあるので、薬浴の際や薬浴の後はエリザベスカラーなどを活用しましょう。
また、薬浴によってフラフラしたり、下痢や吐き気などの副作用が出た場合は、すぐに病院に連絡しましょう。
イベルメクチンを軟膏やオイルに混ぜて希釈したものを外用薬として塗布することもあります。
ただ、お薬を塗った部分を気にして舐めてしまうことがあるため、塗布した後はしばらくエリザベスカラーなどをつけて舐められないようにしましょう。
いずれのお薬もダニなどの寄生虫を殺すお薬です。
中には投薬や薬浴によって具合が悪くなる場合もあるので、特に治療を開始するときには体調の変化に気を付けましょう。
基礎疾患がある場合や、膿皮症などを合併している場合にはそれらの治療も併せて行います。
どんなにお薬を増量しても、基礎疾患があるためにいつまでも治らない場合もあります。
逆に、基礎疾患がよくなったためにニキビダニ症の治療がいらなくなるケースもあります。
早期治療のためには、はじめに体の状態をしっかり調べてもらうことも重要なポイントになります。
ニキビダニは動物の体で共生する身近な寄生虫であるにも関わらず、ひとたびニキビダニ症に発展してしまうと全身の皮膚にひどい炎症を起こし、治療に何カ月もかかることがあります。
皮膚トラブルや体調不良が起こりやすい暑い季節、ペットも快適に過ごせるように、定期的にシャンプーをして皮膚を清潔に保ち、皮膚の状態もこまめにチェックしてあげましょう。