動物の一日の水分必要量は
132×体重の0.75乗 (132×体重×0.75×0.75)
あるいは
体重×30+70
といった式で大まかに計算されます。
しかし実際には一日の飲水量は個体差が大きく、生活環境や運動量、食事に含まれる水分の影響によっても大きく変動しますので、あくまでも目安として考えてください。
より重要なのは飲水量の変化です。
病気が原因の飲水量の増加でも、1日~2日で急にたくさん水を飲むようになるということはありません。
長期的に見て、前よりずいぶん水を飲むようになったな、と感じるのが普通です。
そのため、普段からどれくらいの水の量を飲むのかを把握しておかなければ、飲水量が増えたのかどうかわかりません。
毎日でなくとも、月に1~2回程度でいいので、飲水量を測ってみる、ということを習慣にしましょう。
朝、水飲み用の器に水を測ってから入れ、交換する際にも水の量を測ります。
その差し引きを1日分合算し、飲水量を計算します。
お散歩中にあげた分の水も忘れずに加えましょう。
ペットボトルなどにあらかじめ決まった量の水を入れておき、散歩から帰った際にどれくらい飲んだのかを測るとわかりやすいです。
器から自然に蒸発する水分も多少ありますが、大体の一日の飲水量がわかれば十分です。
大まかな目安としては、一日に体重1kgあたり100ml以上水を飲む場合に、病的な多飲を疑います。
3kgの動物では300ml以上、10kgの動物では1000ml以上、という感じです。
飲水量が多いと感じた時は、一日だけでなく数日続けて測定し、その平均を見るようにしましょう。
100mlを超えなくても、体重あたり30mlほどしか飲まなかった犬猫が、80~90ml飲むようになったなど、大きく変化があった場合にも注意が必要です。
飲水量が増えると、その分排尿量も増加します。
そのため、飲水量が増えたことに気づかなくても、排尿の変化から体調の変化に気付ける場合もあります。
具体的には、ペットシーツや猫砂のおしっこの塊が大きくなった、トイレの回数が増えた、排尿時間が長い、お漏らしをするようになった、などです。
このように飲水や排尿に変化がみられた時には、できるだけ早く病院を受診することをお勧めします。
その際、尿を採取して持っていくと診断に役立つことがありますので、トライしてみてください。
採尿は男の子のワンちゃんは紙コップなどでできますが、女の子のワンちゃんや猫ちゃんではなかなか難しいものです。
動物病院で採尿器(細い棒に小さな吸水スポンジがついたもの)を出してもらうと簡単に採尿できますので相談してみてください。
病気以外でも、以下のような要因で飲水量が増えることがあります。
・フードの変化(缶詰からドライに変更した)
・利尿剤やステロイド剤などのお薬を飲み始めた
・ストレス
・環境の変化(夏の暑さ・床暖やストーブ)
・アジリティーなど激しい運動をした
このような変化がなかったかどうか見直したうえで、やっぱり飲水量が多いという場合は早めに病院を受診しましょう。
多飲多尿を引き起こす病気はたくさんありますが、代表的なものには以下のような病気が挙げられます。
・糖尿病
・慢性腎臓病
・肝臓病
・甲状腺機能亢進症
・副腎皮質機能亢進症
・高カルシウム血症
・子宮蓄膿症
・尿崩症
ここからはそれぞれの病気について簡単にご説明します。
① 糖尿病
血糖値を正常に保つために必要なインスリンの量が足りなくなる、あるいはインスリンの効果が出づらくなることによっておこる病気です。
長期間、血糖値が高い状態が続くと、白内障や腎機能低下など様々な臓器に障害が生じ、また体に糖分をエネルギー源として吸収できないために痩せて衰弱してしまいます。
尿糖が検出され、血液検査で血糖値や糖化アルブミン(またはフルクトサミン)などの上昇を確認することで診断されます。
治療には主にインスリンの投与と食事管理、場合によって経口血糖降下剤の投与などが行われます。
重度の糖尿病でケトアシドーシスという状態に陥った場合は、入院して慎重に治療をすることが必要になります。
② 慢性腎臓病
加齢などによって腎臓の機能が低下しておこる病気です。
本来腎臓で濃縮されて排泄される尿が、腎機能の低下によって濃縮されずに排泄されるため、尿量が増え、脱水が起こる結果として飲水量が増えます。
進行すると吐き気や食欲不振を示し、末期には尿毒症から神経症状などを起こすこともあります。
血液検査では腎機能の指標となるBUNやCREという項目の上昇がみられ、尿検査では尿比重の低下やタンパク尿が検出されます。
萎縮して低下した腎機能は残念ながら回復することはありません。
残った腎臓の機能をできるだけ維持できるように、食事療法や活性炭などの吸着剤による補助療法を行い、血管拡張薬によってタンパク尿や二次的に起こる高血圧を抑え、脱水に対して皮下点滴(重度の場合は静脈点滴)などを実施します。
また、腎臓からは血液を作るために必要なホルモンが出ており、腎機能低下によって貧血が起こっている場合には鉄剤やホルモン注射なども行われます。
③ 肝臓病
感染症や免疫の異常、薬物の摂取が原因の肝炎、あるいは原因不明の肝炎や慢性の肝臓病では、症状の一つとして多飲多尿が起こることがあります。
肝臓の病気は、血液検査、レントゲン検査、超音波検査で肝酵素の上昇や肝臓の腫大あるいは構造の異常を検出することによって診断できます。
治療は原因によって様々ですが、基本的には肝保護剤や点滴、食事療法などによって肝機能を維持しつつ回復を待ちます。
肝臓は非常に再生能力の高い臓器なので、肝硬変など重度の障害がある場合を除いて、機能の回復が期待できます。
④ 甲状腺機能亢進症
喉にある甲状腺という組織から甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて起こる病気で、主に高齢の猫でみられるホルモン疾患です。
多飲多尿の他、異常に興奮しやすくなる(攻撃的になる)、食べているのに痩せてしまう、消化器症状(嘔吐・下痢)、心肥大、頻脈などを起こします。
血液検査で甲状腺ホルモンの上昇を調べて診断します。
治療は甲状腺ホルモンの合成を抑えるお薬の投薬です。腎不全などを合併していなければ外科手術で甲状腺を切除する場合もあります。
⑤ 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
腎臓の近くにある副腎という臓器から、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌されて起こるホルモン疾患です。
多飲多尿の他、多食、腹部膨満、筋肉の萎縮、脱毛、皮膚の萎縮などを示し、ホルモンの影響によってインスリンの働きが阻害され、糖尿病を起こしてしまうこともあります。
診断は血液検査、超音波検査、ホルモン負荷試験、尿検査などによって行います。
この病気は、副腎自体に腫瘍ができて起こる場合と、副腎の働きを調整している脳の下垂体という部分に腫瘍ができて起こる場合の2種類があります。
どちらの場合もコルチゾール分泌を抑える薬を飲ませることによって治療することが多いのですが、副腎の悪性腫瘍が疑われる場合や下垂体腫瘍によって神経症状がみられる場合には外科手術も検討します。
⑥ 高カルシウム血症
様々な理由によって血液中のカルシウムが高値になり、多飲多尿を示します。
カルシウムは上皮小体から放出されるホルモンによって血中濃度が調整されています。
上皮小体の機能が亢進する、副腎の機能が低下する、あるいは腎不全などによりカルシウムとリンのバランスが崩れると、高カルシウム血症を起こします。
他には、ビタミンDサプリメントの摂りすぎや、悪性腫瘍によって作られた上皮小体ホルモンに類似した物質が原因となることもあります。
症状は多飲多尿以外に神経症状や消化器症状(食欲不振・嘔吐)などに加え、重度の高カルシウム血症では不整脈を起こす場合があります。
また、高カルシウム血症が長期にわたると尿路結石ができることもあります。
高カルシウム血症は血液検査でわかりますが、根本の原因を探るためにレントゲン検査・超音波検査・ホルモン検査などが必要になります。
治療としては、点滴や利尿剤によってカルシウムを下げる治療を行います。
しかし、原因となっている疾患を治療しなければ、一時的にカルシウムが低下してもすぐに再発します。
⑦ 子宮蓄膿症
細菌感染による炎症によって、子宮に膿が溜まる病気です。
未避妊の雌で、犬でも猫でも割と多く起こる病気です。
症状は多飲多尿の他に、元気・食欲消失、腹部が大きく膨らむ、嘔吐、陰部からの排膿(ない場合もある)などです。
気づかずに時間が経つと、ショック状態など重篤な症状を引き起こし、命に関わります。
診断には血液検査、レントゲン検査、超音波検査、陰部のおりものの検査などを実施します。
治療は抗菌剤の投与、点滴とともに子宮卵巣摘出術を行うのが一般的です。
手術をせずに内科治療(ホルモン製剤と抗菌剤での治療)をする選択肢もありますが、治療に時間がかかるうえに副作用や再発のリスクもあるため、麻酔がかけられない特別な理由がある場合以外にはあまり勧められません。
⑧ 尿崩症
脳から分泌される抗利尿ホルモンの不足によって、腎臓で排泄される水分の調整ができなくなり、多尿になるために多飲を起こす病気です。
尿量が非常に多くなるため、重度の脱水を起こし、それによって急性腎不全を起こすことがあります。
先に挙げた他の病気をすべて除外した上で、水分制限試験というものを行って診断します。
また、脳に腫瘍があって起こる場合があるので、MRI検査も勧められます。
そのため、診断がつくまでに少し時間と費用が掛かります。
治療は抗利尿ホルモンの補充を行います。
お薬は液体のお薬を1滴単位で調整して治療します。
その指標として尿検査で尿比重を見るため、尿検査は非常に重要になります。
動物は少し体調が悪くても、あまり目立った症状を示さないことがたくさんあります。
それでも、日々の生活の中で私たちが少しだけいろいろな変化に気を配っていれば、病気を早く見つけてあげることができます。
水を飲む量やおしっこの状態のチェックは、やろうと思えば今日からすぐにでもできる健康管理です。
ぜひ習慣化して、ペットの健康を守ってあげましょう。