犬や猫など、多くの哺乳動物には発情期があり、この時期に交配を行うことによって、動物は高確率での妊娠・繁殖を可能にしています。
動物種によって性周期や発情の兆候、発情期の間隔や時期は異なりますが、犬猫の場合は、性成熟したオスはいつでも交配可能で、メスが発情期にオスを許容するようになることで交尾が成立します。
犬のメスでは、個体差はありますが、生後6カ月から10カ月位の間に初回発情がみられ、その後は、1年に1~2回(6~10カ月間隔)のペースで発情が起こります。
一般的には小型犬の方が大型犬よりも早く初回発情が起こる傾向があります。
年を取ると発情兆候は乏しくなりますが、一定間隔の性周期は高齢になっても繰り返されます。
発情期には外陰部が腫れて充血し、発情出血がみられ、メスはオスを許容するようになります。
排卵は発情期の3日目に起こり、この前後に交配すると妊娠する確率が高くなります。
一方、猫は季節によって発情期が訪れる季節繁殖動物で、春(2~4月)から夏(6~8月)にかけてメスが発情します。
犬のような発情出血はなく、お尻を高く上げるようになったり、体や頭を色々なところに擦り付ける、床にゴロゴロと転がりながら体を擦りつける(ローリング)、甲高い声で鳴く、オス猫のようにスプレー行為をする、など行動に変化がみられます。
一度発情が起こると、2~4週間のサイクルで2~3回繰り返し、1~2カ月の休止期を挟んで再び発情が起こります。
排卵は交尾刺激によっておこるため、妊娠率は非常に高く、約90%にも上るとされています。
犬と同様、避妊手術をしなければ毎年発情は訪れますが、やはり加齢とともに徐々に兆候は乏しくなっていきます。
ヒトに比べると犬猫の妊娠期間は非常に短く、犬の妊娠期間は63日、猫の妊娠期間は63~65日とされています。
交配後、約2カ月で赤ちゃんが生まれるということですね。
妊娠しても、5週目くらいまではお腹や乳腺に大きな変化は現れません。
その後は胎仔の成長に伴って、体重が増加し、お腹も徐々に大きく膨らんでいきます。
妊娠期間中は、十分に栄養補給・水分補給ができるようにしましょう。
総合栄養食を妊娠5週目ころから増やしていき、食事を小分けにして食べさせます。
必要な栄養量は妊娠している胎仔の頭数によっても異なりますが、最終的には普段の倍位の栄養が必要になります。
必要に応じて、妊娠・哺乳期用や成長期用のフードに切り替えてしっかり栄養を摂らせましょう。
適切に食事が摂れていれば、栄養補助としてのビタミンD、カルシウム剤などの投与は必要ありません。
逆にこれらを摂りすぎると、カルシウムの吸収に関わるホルモンのバランスに異常をきたし、低カルシウム血症を起こすことになりかねないので、気を付けましょう。
妊娠期間中は、胎仔の成長に影響を与える可能性がある様々な薬剤が使用できなくなります。
その中には抗生物質や駆虫薬なども含まれます。
そのため、他の犬との接触は最小限にして、寄生虫や細菌、ウイルス感染などを起こさないように気を付けましょう。
ワクチン接種も妊娠期間中は避けたいところです。
事前に接種するなど計画性をもって臨みましょう。
フィラリアの予防薬は問題なく使用できます。
妊娠中の激しい運動は控えた方がいいですが、健康維持と肥満による難産防止のためにも、適度なお散歩で体を動かし、体力を落とさないようにしましょう。
動物の妊娠診断は、血液検査や尿検査では行いません。
主に超音波検査とレントゲン検査を行います。
交配後、1カ月後くらいには超音波検査で胎胞が確認できます。
超音波検査は、胎仔が生きているかどうかの確認や、他の子宮疾患との鑑別も兼ねて行います。
胎仔が大きく成長し、骨がしっかりと形成される45日目以降にはレントゲン検査で胎仔を確認することができます。
妊娠期に頻繁にレントゲンを撮ることはあまり好ましくないので、出産が近づいた妊娠55日以降位に、胎仔の頭数や大きさ、向きを確認するために、レントゲン検査をします。
あらかじめ難産が予想される場合には、帝王切開になる可能性があるため、かかりつけの病院と緊急時の対応についてよく話し合っておきましょう。
病院と緊密に連携をとることで、母体にとっても赤ちゃんにとっても安全な出産を実現できます。
出産予定日が近づいてきたら、出産させたい場所に出産用の箱を置き、慣れさせておきます。
出産場所は、あまり人が行き来しない、落ち着いて出産できる場所を選びましょう。
箱は、母親が容易に出入りでき、子犬や子猫が脱走しない高さがあるもので、出産後、母犬・母猫が寝そべって授乳できる位の大きさが必要です。
中には新聞紙やタオルなどを敷きますが、不潔にならないようにこまめに取り換えます。
長毛種の場合は、陰部や乳腺の周りの毛を短く整えておきましょう。
出産時や出産後、衛生状態を保ちやすくなります。
出産時期の目安になるのは体温です。
出産が近づくと、母犬・母猫の体温は2度ほど低下します。
体温(直腸温)測定を出産予定日の数日前から一日2回、できれば3回するようにし、通常の体温を把握しておきましょう。
出産には飼い主さんが立ち会うようにします。
不測の事態が起こって、うまく出産できない場合、飼い主さんの介助が必要になったり、場合によっては病院に緊急で向かわなければいけないこともあるからです。
体温が低下し始めたら24時間以内には出産が始まるので、飼い主さんも仕事を調整して休むなど準備します。
難産になるかもといわれている場合には、病院にすぐ連絡できるようにしておきましょう。
分娩は3つの段階に分けられます。
・第1期(開口期)
分娩の準備段階に入った状態です。
子宮頚管が緩み、断続的に子宮が緊張します。
お腹にはまだ力がかかることはありませんが、食欲がなくなり、落ち着きなく寝床を掻いたり、グルグル回ったりし、震えや嘔吐がみられる場合もあります。
大体4時間くらいですが、初産の場合は長くなることもあり、24時間続くこともあります。
・第2期(娩出期)
子宮口が完全に開き、腹部に力が入ることによって胎仔が産道から出てきます。
産道を通る過程で破水が起こり、胎包に包まれた赤ちゃんが徐々に見えてきます。
通常、鼻先から出てきますが、犬猫では1/3くらいは後ろ足を先にして出てきます。
これも異常ではありません。
赤ちゃんが生まれると、母親は胎包を噛み破って体をきれいに舐め、へその緒を噛み切ります。
身体を舐めているうちに赤ちゃんは鳴き声を上げて動きはじめます。
母親がこれをしない場合は、飼い主さんが赤ちゃんを包んでいる膜をすべて取り除き、へその緒を身体から2~3cmのところで糸で縛って切り離し、きれいなタオルで包んで赤ちゃんの体をこすります。
数分こすっていると、もがきながら大きな鳴き声を上げます。
・第3期(後産期)
出産後は胎盤が排出され、2頭以上の赤ちゃんがいる場合、次の分娩までの間に休息時間があります。
通常10~30分程度ですが、すぐに次の出産が始まったり、1時間ほど間隔が空く場合もあります。
全ての赤ちゃんが生まれるまで、第2期と第3期を繰り返します。
胎盤は、赤ちゃんの数と同じ数、排出されるはずなので、数を必ず確認しましょう。
胎盤が子宮に残ったままになると、のちに子宮の炎症などの原因となり、子宮・卵巣を摘出しなくてはならないことになってしまいます。
また、昔は母親の栄養のために胎盤を食べさせる、ということも言われていましたが、嘔吐や下痢の原因となり、逆に母親の体調を崩してしまうこともあるので、食べさせずに処分しましょう。
赤ちゃんが産道の中でひっかかり、母親が自力で生み落とせない場合は、飼い主さんがすぐに助けてあげなければなりません。
キレイなタオルで赤ちゃんをつかみ、ゆっくりと力を入れながら引き出します。
5分ほど引っ張っても引き出せない場合はすぐにかかりつけの病院に連絡してください。
緊急で帝王切開になる場合もあります。
帝王切開はこのような緊急事態にも行われますが、あらかじめ予定して行う場合もあります。
例えば、母親の体に対して胎仔が大きく(小型犬と大型犬の交配時など)、産道を通れないと予想されるときや、骨盤の奇形や骨折歴があり産道が狭い場合、ブルドッグやチワワ、パグ、ペキニーズ、シーズーなど頭が大きく、もともと難産が多い犬種の場合などです。
出産が始まってから緊急的に行う手術と予定帝王切開では胎仔の救命率に大きな差が出ます。
妊娠時にかかりつけの病院で定期的に健診を受け、出産に関するプランをしっかり立てておくことが母体にとっても赤ちゃんにとっても安全な出産につながります。
無事に出産を終えたら、数日以内に病院を受診し、母子ともに健康チェックを受けましょう。
自宅では、母親の育児を干渉しすぎずに見守ります。
赤ちゃんが母乳を飲めているか、母親が排泄のお世話をしているかどうか、一頭だけひどく発育が悪いということがないかどうかなどをチェックします。
それとともに、母親が食事や水分を摂れているかどうかなど、母体の体調もよく見ておきましょう。
産後1週間は悪露の排出が多くみられますが、その後は徐々に減少していき、3週間ほどで見られなくなります。
おっぱいが腫れて熱っぽく硬くなっている、元気がない、悪臭のする悪露がいつまでも続く、食欲がない、という場合には必ず病院を受診してください。
毎日ちゃんとおっぱいを飲めていて、よく鳴いてよく動く、という場合は赤ちゃんの成長はおおむね良好といえます。
あっという間に大きくなって箱から脱走するようになり、いろいろ悪戯するようになるので、誤食などの事故を起こさないような環境づくりをしましょう。
あなたのペットがお母さんになり、小さくてフワフワの赤ちゃんに囲まれている、という光景はなんとも幸せそうで、想像しただけで温かい気持ちになりますよね。
ただ、水を差すようですが、出産には少なからずリスクが伴う、ということを忘れないでくださいね。
特に人気の小型犬種や頭の大きい犬種などでは難産となることが多く、母体にかかる負担は決して小さくはありません。
1歳未満でも発情があるということは性成熟しているということですが、実際に出産させるのは2歳を過ぎてからの方がいいともいわれています。
その方が体もしっかり成長しきっていますので体力的にも安全ですし、精神的にも安定するようです。
また、不幸な繁殖を行わないという観点から、遺伝性の疾患が報告されている品種では、遺伝子検査や骨格の検査などを受けてからの繁殖を考慮してほしいと思います。
生まれてくる新しい命にも責任を持たなければなりません。
育児放棄が起こってしまった場合には、飼い主さんが3時間おきに人口哺乳・排泄刺激をしなければいけないこともあります。
また、問題になっている多頭飼育崩壊などは、無責任な飼育・繁殖の悲しい結末ですよね。
自宅で育てるにしても、里親を探すにしても、衛生的な環境で愛情をもって育ててもらえる、ということが第一です。
かわいい我が家の愛犬・愛猫の子供を見たい!という気持ちはよくわかります。
だからこそ出産の準備は万全に、飼い主さんも出産や子育てについてよく勉強したうえで臨んでほしいと思います。