動物用の保護具(介護器具)であるエリザベスカラーは、ペットの首もとに装着して一定の視界を遮ることで、患部や傷口を舐めるなど、ペットが自ら接触することを防ぐ役割を果たします。
たとえば人間でも皮膚にできたかさぶたを、つい触りたくなる、剥がそうとしたくなる、といった衝動にかられてしまうものですが、ペットもケガを病院で処置した後の患部や避妊・去勢手術の跡などを気にして、包帯やガーゼを外す、あるいは直接患部を舐めようとする行動を取ることがあります。エリザベスカラーは装着したペットに患部や傷口を見せない、あるいは口もとまで届かせないようにすることで、ケガの治癒や手術後の順調な回復をサポートするための器具となります。また、皮膚病などで痒みが生じる部位などを舐めてしまう行動の防止や、シニア期の介護などにも幅広く活用されています。
エリザベスカラーはペットに使用される患部保護具で最もポピュラーなものといえますが、その中でも最も一般的に使用されているのは、円錐台形状のプラスチック製。ペットの顔全体を大きなメガホンで覆ったような着用感となり、真横や後ろからの見た目はペットの首から上が完全に隠れた状態となります。
動物病院でも貸し出されることが多い「ベル型」と呼ばれるこのタイプは、患部保護の効果に優れた形状ですが、慣れないものを着けられた上に視界も遮られる不安など、ペットにとっては少なからず着用の負担やストレスにつながる場合もあります。かといって患部や傷口の保護が甘くなれば、そこを舐めてしまうなどの行動によって治癒や回復に影響が出ますので、エリザベスカラーを着用したペットの暮らし方については、カラーによる保護の効果は大きいままで、着用ストレスなどによる日常生活への支障をなるべく小さくすることが理想となります。
もし、動物病院で貸し出されたエリザベスカラーをペットが強く嫌がったり、日常生活に不便や支障が出てしまったりという状況になったら、メーカーが製造、販売している市販のエリザベスカラーに変えてみることも選択肢の1つとなります。
専門店やネット通販などで市販のエリザベスカラーを選ぼうとする時、何を基準にすればいいのか。順にご紹介いたします。
◎素材
素材選びの大切さを最初に挙げた理由は2つあります。1つは現在、プラスチック以外にもさまざまな素材で作られたエリザベスカラーが市販されており、各家庭で広く活用されつつあること、もう1つは製品に使われる素材の違いが、サイズ選びにも大きく関係してくることです。
ポリエステルやPVC 、ウレタン、綿など、各メーカーがそれぞれ工夫を凝らした製品を開発しており、例えば壁や家具にぶつかったり床を引きずったりしても音がしない、着けたまま枕の代わりにもできるなど、より使いやすくて便利なエリザベスカラーも数多く生み出されています。もちろん効果や安全性の見きわめも必要となりますが、選び方次第では、患部の保護はそのままに、ペットが着用する前に近いレベルで快適に過ごせるエリザベスカラーが見つかるかもしれません。
◎角度(カラーの広がり具合)
カラーの角度が狭ければ、ペットの視界もより狭くできて保護の効果も上がりますので、患部や傷口の治癒を何より優先させたい場合には重視すべき項目となります。一方で閉塞感によるストレスや、食事や水飲みの際にはカラーを外さなければならない不便さも考えられるため、患部がある程度癒えてきたり、舐める心配が少なくなったりした場合には、角度を広げて視野を持たせる着用法がいいでしょう。面ファスナー接着などで角度が自在に変えられるエリザベスカラーなら、融通の利いた使い方ができます。
◎重さ
ペットの首への負担に関係する、重さについても配慮が必要です。犬の場合、例えばダックスのようなマズルの長い犬種には奥行き(衿幅)の長いカラーが必要となりますが、重さも相応に増すことを考慮しなければなりませんので、前述した素材などもあわせて検討するのが良いでしょう。
◎首まわり
ペットに適したエリザベスカラーが決まったら、最後にサイズ(号数)を選定しますが、その基準はペットの首まわりです。メーカーが表記している「首まわり目安」については、窮屈さを防ぐために指1~2本分のゆとりをプラスした数字で考えるのが良いでしょう。猫の場合には首から抜いてしまう心配が大きいため、ゆとりは少なめでいいかと思います。また普段首輪を着けている場合には、首輪の周囲をそのままメーカーのサイズ表に当てはめて問題ありません、
エリザベスカラーも時代と共に進化を遂げています。同じベル型でも透明な素材にして視野を確保したり、ドーナツクッションの形状で食事や睡眠も着けたまま行えるタイプや、面ファスナー接着で首まわりや角度を自由に調節できるタイプなど、種類も豊富になりました。また療養中の時間も明るい気持ちで過ごせるようにと、デザインも多彩になっており、ハンドメイド作家による手づくりのエリザベスカラーも、犬猫問わず販売されています。
術後や治療時に欠かせないエリザベスカラーは、用途や症状、ペットの体型などに合わせた商品を選べる時代となりました。エリザベスカラーはただ着けさせればいいというものではなく、着用による負担やストレスがペットに掛かっていることへの理解が大切なケア用品。ペットに対する思いやりの心を持ちながら、最適なものを選んであげてください。