尿石症とは、尿の中の特定のミネラル成分の濃度が高まることによって、尿中に結晶や結石ができてしまう病気です。
その原因には様々なものがあり、尿路感染によって尿のpHがアルカリ性に傾くこと、肝臓疾患やホルモン疾患などによって本来代謝されるべき成分が尿中に多く出てしまうために発生するもの、先天的な代謝異常によっておこるもの、体質的に尿が酸性やアルカリ性に傾きやすいために起こる場合などがあります。
犬猫に見られる尿石症には以下のようなものがあります。
・リン酸アンモニウムマグネシウム結石(ストルバイト)
・シュウ酸カルシウム結石
・尿酸アンモニウム結石
・シスチン結石
・シリカ結石
・リン酸カルシウム結石 など
この中で圧倒的に多いのは、ストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石です。
犬猫の尿石症の8割はこのどちらかで、腎臓結石はシュウ酸カルシウム結石が多く、膀胱結石ではストルバイト結石が多く認められる傾向があります。
結石が存在する場所によって腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼ばれ方が変わりますが、結石ができる場所は主に腎臓か膀胱で、それが尿管に流れ込んだものが尿管結石、尿道に流れ込んだものが尿道結石です。
また、結石になる前の段階で、尿の中に結晶が認められる場合を結晶尿といいます。
結石や結晶尿は、膀胱炎や尿道閉塞の原因となり、完全に尿路が閉塞してしまうと急性腎不全から命の危険につながることもあるため、しっかりとした治療・管理が必要な病気の一つです。
尿路結石の治療には、外科的な摘出、膀胱洗浄による除去、溶解療法などがあり、フードでの管理は溶解療法の重要なポイントとなるとともに、再発予防にも大きく関わっています。
ストルバイト結石は犬猫では非常によく見られる結石ですが、溶解療法が可能な結石です。
尿がアルカリ性に傾くと形成されやすい結石で、尿のpHを酸性に下げることによって、尿中のストルバイト結晶や結石は少しずつ溶解して小さくなり、最終的には消失させることができます。
この治療には、尿を酸性化し、ストルバイト結石ができにくい組成で作られた特別なフードを食べさせることが必要です。
ストルバイト結石の溶解食は、ストルバイトの構成成分であるマグネシウムやリンの含有量を制限し、タンパク質も過剰摂取とならないような組成となっており、尿のpHが酸性になるように設計されています。
また、水分摂取を促すために、塩分含有量がやや高めになっていることもあります。
フードの変更だけでも結石が消失することが多いですが、尿路感染症によって尿がアルカリ性になっている場合には、抗生物質の内服も併用して治療を行います。
溶解療法で注意が必要なのは、腎臓病や心臓病がある場合です。
塩分の含有量が高いために腎臓に負担をかけることがある他、水分摂取量が増えるために心臓にも負担をかけることがあります。
また、同じ尿路結石でもシュウ酸カルシウムの場合にこのフードを給餌すると、結石が大きくなってしまいます。
溶解療法を開始する前には、尿検査などで結石の種類の見当をつけ、フードの適否を判断することが必要ですので、必ず病院を受診しましょう。
結石が十分に溶け、レントゲンや超音波検査で確認できなくなったら、維持期の治療に移行して再発を予防します。
ストルバイトの溶解療法で使用されるフードは、市販されているフードとは異なり、主に動物病院で処方される処方食です。
処方食をいつまで続けるべきかは、定期的に病院を受診し、検査を繰り返すことで獣医師が判断します。
溶解食は、ストルバイトを溶かすために尿を酸性に傾けるように作られているため、必要以上に長期間給餌していると、酸性尿で形成されるシュウ酸カルシウム結石ができてしまうことがあります。
獣医師の判断でもう溶解療法が必要ないと判断されたら、維持期用のフードに切り替えましょう。
維持期のフードも同様にリン、マグネシウムの量が制限され、pHを弱酸性に維持できるフードが好ましいですが、溶解療法を行っている時ほどpHを下げる必要はありません。
目標とする尿のpHは6.2~6.4位です。
はじめは選択が難しいため、病院の処方食でしばらく治療を行い、再発が見られず管理が良好であれば、尿石症対応とされている一般食への切り替えも可能です。
しかし中には、処方食の様にシビアに成分が制限されている食事でないと再発してしまう犬猫もいるため、食事の変更時には定期的に尿検査を受け、フードが合っているかどうかをチェックしながら徐々に変更するようにしましょう。
シュウ酸カルシウム結石も、犬猫で非常によくみられる結石です。
尿が酸性に傾いていたり、野菜などに含まれるシュウ酸を多く摂取していると形成されやすく、一度石になってしまうとストルバイトの様に溶かすことはできません。
小さな結石は自然に排泄されるのを待つ、あるいは膀胱洗浄によって除去し、大きな結石が膀胱炎や尿道閉塞などの原因となっている場合には、手術で摘出することが必要になります。
結石が一旦なくなっても、同じ食生活を送っていれば高率で再発します。
結石の原因となるシュウ酸は野菜類に多く含まれるため、ホームメイド食などで野菜をたくさん食べさせている場合には、成分の調整がとれた尿石症対応フードに変える必要があります。
一般的なドライフードを食べている場合も、カルシウムやビタミンDの過剰摂取を避け、尿のpHを適切なレベルに保てるようなフードへの切り替えが必要です。
処方食の中には、ストルバイト結石・シュウ酸カルシウム結石のどちらにも対応したフードもあります。
リンやマグネシウムを適切な水準に調整しつつ、シュウ酸カルシウム結石の形成を阻害するクエン酸カリウムを含有し、尿のpHを適切なレベルに保つよう調整されたフードです。
このようなフードをうまく活用することで、飼い主さんの負担も少なく治療・再発予防の管理ができます。
ホームメイド食へのこだわりがある飼い主さんもいるかと思いますが、尿石症の場合はホームメイド食での管理は非常に難しいと思われます。
ホームメイド食を食べさせている状態での尿石症発生リスクなどはデータとしてほとんど集められていないため、どのような設計でフードを作ればいいかという的確な指標がないからです。
栄養バランスも良く、病気に対する効果がしっかり研究された処方食をうまく活用することも上手な治療法といえます。
・尿酸アンモニウム結石
尿が酸性に傾くとできやすい結石です。
門脈体循環シャントのような肝臓の代謝機能に関係する先天的な異常がある場合や、遺伝的にプリン体の代謝異常がある品種などで稀に見られます。
プリン体やタンパク質を適度に制限したフードなどを給餌することが尿石症の発症予防になります。
・シスチン結石
先天的な代謝異常などがあると発生しやすい結石ですが、発生自体は稀です。
酸性尿では溶けにくく、アルカリ尿では溶けやすいという性質を持ちます。
高タンパク食や高ナトリウム食を避けることが、発生リスクを下げることにつながります。
・シリカ結石
シリカとは、ケイ素という成分でできた結石で、溶かすことはできないため外科的な摘出が必要になります。
比較的珍しい結石で、土を食べてしまう犬猫や、質の良くない植物原材料(粗びきコーンや大豆かす)を多く食べているとできやすいとされています。
土地によっては井戸水などにシリカが含まれている地域(シラス台地など)があるようです。
土を食べさせないようにし、フードもできるだけ良質なものを与えるようにしましょう。
・リン酸カルシウム結石
リンとカルシウムの過剰摂取などによってできる石です。
食事のバランスが悪い場合や、リンとカルシウムの代謝に関わる上皮小体という臓器の機能異常によっても結石の発生が見られます。
この結石も溶けないため、治療には場合によっては外科手術が必要になります。
リン・カルシウムのバランスがとれた食事を与え(サプリメントなどを必要以上に多給しない)、基礎疾患を治療することで発生を予防できます。
尿石症を管理する上で食事内容は非常に重要ですが、背景に基礎疾患がある場合にはフードだけ変更しても治療はうまくいきません。
治療を開始する際には尿検査に加えて一般的な健康チェックを受け、基礎疾患がないかどうかなども含めて調べてもらいましょう。
また、治療として尿石症対応のフードを食べていても、加齢などによる個々の体質の変化や新たに起こった病気が原因で、フードの効果が十分に発揮されなくなることもあります。
定期的に尿検査を行い、今食べているフードが適しているかどうかを時々チェックすることも大切です。
フード管理に加え基本的な生活管理として、トイレを清潔に保ち排泄を我慢させない、十分に水分摂取をさせる、適度に運動させ肥満を予防するということも忘れないようにしましょう。