腎臓は血液中から体に不必要な成分や老廃物を漉しとり、尿として排泄する臓器です。
血液のろ過を行うとともに、体の水分調節や血液を作るのに必要なホルモンの分泌、消化管からのカルシウムの吸収にも関わっています。
一方心臓は、全身に血液を送りだすポンプとして働いています。
一見別々の働きをしている2つの臓器ですが、その働きは血圧や体液量を調整する神経ホルモンなどの作用によって密接に関連しており、腎臓病がベースにある心臓病や、心臓病が慢性腎臓病を悪化させる場合などがあります。
それぞれの疾患の治療を行う際には、腎臓・心臓双方の状態を把握・考慮しながら行うことが重要です。
腎臓病になってしまった場合、腎臓にかかる負担をできるだけ軽減し、残っている腎機能をできるだけ維持する治療を行います。
その一つとして重要なのが食事です。
腎臓病の食事管理に必要なことは、
・腎臓に負担がかかる成分を制限する
・腎臓の健康に役立つ成分を加える
・全体のバランスが崩れないようにする
ということです。
まず、腎臓病の時に摂取量に気を付けたい主な成分には以下のようなものがあります。
・タンパク質
・リン
・ナトリウム(塩分)
・カリウム
タンパク質は体を維持するためにある程度の摂取が必要ですが、体内で代謝を受けた後、尿素窒素やクレアチニンとなって腎臓で漉しとられ排泄されます。
タンパクの摂りすぎは腎臓に過剰な負担をかけるため、腎臓病の食事としてはタンパク量を適度な量に制限されたものが理想的です。
質の良い蛋白質を適度に摂ることで余分な老廃物を減少させ、腎臓への負担を減らすことができます。
リンは骨や歯の健康維持に必要な成分ですが、摂りすぎると腎臓に負担をかけ腎臓病を悪化させる要因になることがわかっています。
また、慢性腎臓病の動物は不要なリンを排泄しづらくなっているため、できるだけ食事中のリンを制限する必要があります。
ナトリウムは主に塩分として食事中に含まれています。
初期の腎臓病ではそこまで厳密に制限しなくて良いとされていますが、体のナトリウムの量も腎臓からの排泄によって調節されているため、摂りすぎはやはり腎臓に負担をかけます。
特に末期の腎臓病では余分なナトリウムを体外に排泄できなくなり、電解質異常として高ナトリウム血症などを起こすため、制限が必要です。
カリウムもまた腎臓で排泄される成分の一つです。
野菜や果物に多く含まれる成分で、ナトリウムの排泄にも役立ちますが、機能が低下した腎臓ではその排泄がうまくできなくなり、体に溜まってしまうことがあります。
高カリウム血症が起こると、不整脈や脱力、吐き気などを起こします。
腎臓病の場合は摂取量には注意が必要です。
上に挙げた成分は腎臓病の進行抑制のために摂取量を制限した方が良い成分ですが、腎臓の健康維持のために摂取した方が良い成分もあります。
その一例を以下にご紹介します。
・乳酸菌
・食物繊維
・オメガ3脂肪酸(DHA,EPA)
・Lカルニチン
腸内環境を整えることは腎臓病の進行抑制にも重要です。
腸内には多くの腸内細菌が生息していますが、その中でも悪玉菌が増えてしまうと、尿毒素という老廃物が多く生成され、腎臓に悪影響を及ぼします。
乳酸菌や腸内環境を整える可溶性食物繊維などを摂取することで腸内環境を改善し、悪玉菌の増殖を抑制すると、尿毒素の生成を減らすことができます。
また、脱水により便秘になりやすい猫の腎臓病などでは、食物繊維の効果によって便通を改善する効果もあります。
オメガ3脂肪酸に属するDHAやEPAは青魚に多い成分で、多価不飽和脂肪酸と呼ばれます。
血中の脂質を低下させたり、血管を柔らかく維持する作用があり、体内の血行促進や高血圧予防効果があります。
腎臓病は、腎臓を構成する毛細血管の硬化や高血圧によって徐々に進行します。
そのため、オメガ3脂肪酸を含む食事は、腎臓病の進行抑制に効果が期待できます。
Lカルニチンは体内でも肝臓や腎臓で生成されるアミノ酸です。
脂肪を燃焼させてエネルギーに変換する効果がありますが、細胞内のミトコンドリアで作られた有害物質を排泄させて体にとどまるのを防止する効果があります。
Lカルニチンの補給は、腎臓の負担を軽減することにつながります。
心臓病もまた食事による管理が非常に重要な疾患の一つです。
心臓疾患の食事管理として一般的によく言われていることは、塩分を制限するということですが、なぜ塩分が心臓病に良くないのでしょうか?
塩分はナトリウムとクロールからできています。
ナトリウムは体の水分調節に関わる電解質で、塩分を摂りすぎると水分量が増えることで血液量が増加し、静脈のうっ血や高血圧を起こし、心臓に負担をかけてしまうのです。
また、塩分を摂ることで動物は喉が渇き、水分摂取量が増えます。
それによっても血液量が増加し、心臓の負担になります。
しかし近年、塩分の過剰摂取は良くないが、制限しすぎることもかえって心臓に悪影響を与えることがわかってきました。
そのため、心臓病の進行程度に合わせた塩分制限が必要ということになります。
塩分の他に食事管理として気を付けたいポイントはカロリー摂取量です。
肥満傾向になると、心臓は体が大きい分多くの血液を全身に送り出さなくてはならないため、より多くの負担がかかります。
心臓病の予防としても治療の一環としても、体重のコントロールをすることは重要です。
また、はじめにもお話しした通り、心臓と腎臓は密接に関連しており、心臓病と腎臓病を併発することも少なくないため、心臓病用の食事の多くは腎臓への負担を考慮してリンが制限されているものが多くみられます。
心臓病の治療に役立つ成分も色々ありますが、代表的なものをいくつかご紹介します。
・タウリン
・Lカルニチン
・カリウムやマグネシウム
タウリンは心機能を正常に保つために重要な成分で、心筋の収縮力強化に役立つとされています。
拡張型心筋症などの動物ではタウリンが低下していることが多く、またタウリン量が正常な動物であっても、タウリンを追加してあげることが心臓病の治療として有効なケースもあると言われています。
腎臓病食でも登場したLカルニチンは心臓の収縮力維持にも役立ちます。
特に心筋細胞にはLカルニチンが多く分布しており、収縮に必要なエネルギーを供給するのに一役買っています。
また、拡張型心筋症の犬ではLカルニチンが不足しているという報告もあります。
Lカルニチンを補充してあげることで心筋の正常な収縮を助けることができます。
心臓病では、利尿剤などの心臓病治療薬を投与する影響で、低カリウム血症や低マグネシウム血症が起こりやすくなります。
これらの成分が不足すると、不整脈や心筋の収縮力低下などを招いてしまうため、食事には適度な量のカリウムやマグネシウムが添加されていることも必要です。
心臓病や腎臓病は、一度発症すると完治することはなく、わずかずつですが加齢とともに進行していく病気です。
しかし、早期に発見できれば適切な治療・管理によって、進行を大幅に抑えることができる病気でもあります。
特に早期の腎臓病では、食事管理のみでも進行を抑制する効果が期待できます。
治療の詳細はケースバイケースですが、食事でその補助をしてあげることでペットたちの快適な生活をサポートしてあげましょう。