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執筆獣医師:齋藤厚子先生
[記事公開日]  [最終更新日]
[ 目次 ]

猫の血液凝固異常とは

出血時に起こる血液の凝固反応に異常が起こってしまう病態のことです。

血液の中には、出血が起こった際に止血をするために、血小板や血液凝固因子という止血に関わる様々な成分が含まれており、傷ついた血管を塞いで止血する機能が備わっています。

止血の段階には凝固系と線溶系という2つの機構があります。
血管が傷ついて出血が起こると、凝固系がすぐさま反応し、血小板が血管の損傷部位に接着して蓋をし(一時止血)、その周りを様々な凝固因子が補強してより強固な線維素の壁を作ります(二次止血)。
出血が落ち着いた後は治癒過程として線溶系の因子が働き、血管を修復する際に作られた余計な血栓を溶解して、血管を滑らかな状態に戻します。
これらの機構がバランスよく作用することによって正常な止血と血管の修復がなされます。

しかし、体に何らかの異常が起こると、この血液凝固系の働きに異常が起こり、止血がうまくできない、あるいは異常に血栓ができてしまう状態に陥り、時には命に関わる事態にもつながります。

凝固異常が起こった場合の多くは原因となる重大な疾患を抱えているため、治療のためにはまずは全身的な検査を行い、原因をしっかりと突き止めたうえで治療する必要があります。

猫の血液凝固異常の症状とは

出血傾向がみられます。

血液凝固異常が起こった際に多くみられる症状は出血傾向です。
症状には以下の様なものがあります。

・体の皮膚のどこかに内出血がある(紫斑)
・粘膜出血が起こる(白目や口の粘膜、消化管粘膜等)
・鼻血が出る
・血が止まりにくい(採血時や手術後)
・注射した部位に血腫ができて大きく腫れる
・関節や筋肉内で出血が起こり腫れる、歩行に異常が見られる
・尿の色が濃い黄色~オレンジ色になる
・黒色便~血便が見られる
・舌や口の粘膜、肉球の色が淡く白っぽくなる

猫は全身毛でおおわれているため、皮膚の色が見えにくいですが、比較的被毛が薄く、また皮膚同士が擦れることで刺激を受けやすい内股部分などに内出血による紫斑が見られることがあります。

皮下出血や内出血が多く起こると、重度の場合には貧血になり、可視粘膜が白っぽくなったり、出血した血液を処理する過程で血液の色素が尿や皮膚の色に影響して濃い黄色になり、黄疸が見られることがあります。

犬猫の血液凝固異常では、安静にしているときに自然に出血が起こることは多くなく、注射や手術、ケガをした際など、体に侵襲が加わった際に出血が止まりにくいなどという症状から見つかるケースが多くなります。

DIC(播種性血管内凝固症候群)を起こすと非常に重篤な状態となります。

DICとは、血液凝固系と線溶系が異常に活性化している状態です。
凝固系が活性化することで全身の微小血管に血栓が形成され、臓器の血流障害による機能低下が生じると同時に、血液中の血小板や凝固因子が消費されることで血液の凝固障害が起こり、そこに線溶系が活性化して働くことで出血傾向を示します。

DICは適切な治療を行わなければ重篤化し、脳や肺で出血を起こしたり全身の出血傾向からショック状態を起こし致命的となることがあるため、非常に注意が必要な状態です。

猫の血液凝固異常の原因とは

遺伝性に起こるものがあります。

「血友病」(血友病A、血友病B)や「フォン・ヴィレブランド病」という病気は、遺伝的に凝固に必要な特定の因子を持たない、あるいは因子の量が不足した状態、または機能異常がある状態で生まれてくる遺伝性疾患です。

・フォン・ヴィレブランド病:フォン・ヴィレブランド因子欠損症
・血友病A:第Ⅷ因子の欠損症
・血友病B:第Ⅸ因子欠損症

猫では頻発する病気ではありませんが、少数の発生報告があります。
遺伝性の疾患などの診断には、兄弟猫の情報などが役立ちます。

多くは基礎疾患が原因となり起こります。

大きな固形腫瘍がある場合や、体の中で強い炎症反応が起こっている状態では血液凝固異常が起こりやすい傾向があります。
原因となる基礎疾患には以下の様なものがあります。

・腫瘍(肝臓や脾臓の血管肉腫など)
・炎症性疾患(重度の肝炎や胃腸炎)
・熱中症
・敗血症
・骨髄の異常(白血病、骨髄線維症、脂肪髄など)
・肝臓疾患
・感染(細菌性・ウイルス性)
・自己免疫性疾患

多くの血液凝固因子は肝臓で産生されるため、重度の肝障害が存在すると、出血傾向が顕著に現れます。
また肝臓での凝固因子の合成にはビタミンKを必要とする系統があります。
ビタミンKは体内で合成できないため、ビタミンKの摂取不足や吸収に関わる腸や胆道の疾患、腸内細菌によるビタミンKの合成低下などによっても凝固異常が起こることがあります。

血小板は骨髄で産生されるため、骨髄系の腫瘍や骨髄に影響を与えるウイルス感染(猫白血病や猫エイズウイルス)では骨髄での正常な血小板の産生が減少し、血小板減少症による凝固異常が起こることがあります。

自己免疫疾患の一つとして、血液中の血小板を免疫細胞が攻撃してしまい血小板減少症が起こる場合もあります。

外傷や中毒、投薬によっても起こります。

重度の外傷によって多量の出血があった場合や広範囲の熱傷を負った場合などに、多量の凝固因子が消費されることで凝固因子が枯渇し、出血傾向やDICなどの血液凝固異常が起こります。

殺鼠剤中毒でも血液の凝固異常が起こります。
殺鼠剤には止血異常を起こす薬(ワルファリン等)が使用されているため、それを猫が誤って口にしたり、殺鼠剤によって死んだネズミを食べることで止血異常がおこります。

また、治療として使用した薬剤(抗がん剤やエストロジェンなど)が原因で血小板減少症が起こることがあります。

猫の血液凝固異常の好発品種について

好発する品種はありません。

品種による好発傾向は特にありません。

猫の血液凝固異常の予防方法について

基礎疾患をできるだけ早期から治療しましょう。

血液の凝固異常は他の疾患や病態から二次的に発生します。
そのため、それぞれの病変をできるだけ早期に治療し、血液凝固異常が起こる段階まで進行させないようにすることが予防方法の一つとなります。

しかし遺伝性の凝固因子欠損や、突然発症する免疫介在性の血小板減少症など、予防が困難なケースも多々あります。

室内飼育でリスクを減らしましょう。

ウイルス感染や殺鼠剤の誤食、交通事故などによる重度の外傷などは、外に出ているときに起こるケースが多くみられます。
それらのリスクを回避するためには、室内飼育を推奨します。

遺伝性疾患のある猫は繁殖しないようにしましょう。

遺伝性疾患による凝固異常は根本的な治療方法はありません。
疾患を持つ不幸な猫を増やさないために、繁殖させないようにしましょう。

猫の血液凝固異常の治療方法について

基礎疾患の治療を行います。

まずは血液凝固異常を引き起こしている原因を突き止めます。
そのためには全身的な検査を行う必要があり、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などが行われます。

原因が特定出来たら、それぞれに対する治療を行います。
腫瘍性疾患には腫瘍切除、炎症性疾患には消炎治療、肝臓疾患には肝臓保護、自己免疫性疾患には免疫抑制剤やステロイド剤などで治療します。

凝固因子の合成を補助するためにビタミンKを投与することもあります。

DICでは抗血栓凝固療法を行います。

DICを起こしている場合には基礎疾患の治療を行うとともに、血栓のさらなる形成を防ぐために抗血栓凝固療法を行いながら点滴をして臓器への血流を確保し、全身の臓器障害の進行を抑えます。

治療としてはヘパリンや低分子ヘパリンという血小板の凝集を抑制するお薬の投与を行い、入院治療で点滴を行いながら経過を慎重に観察します。

遺伝性の疾患には根本的な治療方法はありません。

遺伝性に起こる凝固因子の欠損には根本的な治療方法はありません。
激しい運動を避け極力安静に生活し、出血を起こさないように気を付けましょう。

デスモプレシンというお薬は凝固因子の一つであるフォン・ヴィレブランド因子と第Ⅷ因子の放出を一時的に促進する効果があります。
個体によって効果の程度は異なりますが、フォン・ヴィレブランド病や血友病Aの猫がやむを得ず手術を必要とするときに補助的に使用することができます。

血友病の場合には関節や筋肉内などに出血が起こることもあるため、体に異常な腫れが見られたり、歩行異常がある際にはすぐに病院を受診しましょう。
出血部位には圧迫包帯などで止血を行い、安静にすることで再出血を予防します。
重度の出血に対しては下記のような輸血を検討します。

全血輸血または血漿輸血を行います。

血液凝固異常によって出血傾向が重度になると、出血による貧血が起こり、時にはそれが致命的となる場合もあります。

その場合には輸血が行われます。
全血輸血を行うと、貧血の治療として赤血球の補給ができ、不足している凝固因子や血小板を補うこともできます。

貧血がない場合でも、血漿成分だけを輸血する血漿輸血を行うこともあります。
根本的な治療方法のない遺伝性の疾患を持つ猫で手術が必要な場合などでは、手術時の出血が命に関わる可能性があるため、あらかじめ血漿輸血などで凝固因子を補充して手術を行います。

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