糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンが不足する、あるいはインスリンの効果が十分に発揮されなくなることによって血糖値が正常範囲を超え、高血糖の状態が続いてしまう病気です。
糖はインスリンの働きによって血液中から細胞に取り込まれ、細胞が正常に働くためのエネルギー源となります。
しかしインスリンが不足したり、インスリンが効きにくい状態になっていると、血中の糖が細胞に吸収されず、過剰な糖は尿中に排泄されるようになります。
犬では血糖値が180~220mg/dl、猫ではもう少し高く260~300mg/dlを超えてしまうと腎臓の再吸収能を超え、尿に糖が出てしまいます。
血糖値が高い状態で長期間過ごすと、内臓や血管、あるいは神経などに障害を起こすようになり、体は痩せ、末期になるとケトアシドーシスという状態になり命にかかわる状態になります。
主にみられる症状は以下のようなものです。
・多飲多尿
・多食(初期)あるいは食欲不振(進行時)
・食べているのに痩せる
・元気消失
・吐き気
・下痢
・脱水
・白内障(主に犬)
・末梢神経障害(主に猫)
初期のわかりやすい症状として、水をたくさん飲んでおしっこをたくさんする(多飲多尿)という症状があります。
多飲多尿は腎不全など他の疾患でもみられる症状ですが、体に異変が起こっていることを知らせる重要なサインです。
何かおかしいな、と思ったら早めに一度病院を受診して検査をしてもらいましょう。
糖尿病になる原因には、遺伝的な要因、他の基礎疾患によるもの(ホルモン疾患・膵炎など)、不適切な食生活、運動不足、肥満などが挙げられます。
同じ糖尿病でも、犬と猫ではその病態生理や症状、治療経過に少し違いがあります。
ここからはその違いについて説明します。
犬の糖尿病は、ヒトでいうⅠ型糖尿病に似たタイプのものが多いとされています。
Ⅰ型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓の細胞が減少してしまうことでインスリン不足が起こり、糖尿病を発症するタイプです。
絶対的にインスリンが不足した状態なので、治療には基本的にインスリン注射が必要になり、治療は生涯続ける必要があります。
また、副腎皮質機能亢進症などの基礎疾患に伴って起こる糖尿病も多くみられます。
基礎疾患がある場合、その治療をしなければ糖尿病の管理もうまくいきません。
糖尿病と診断する際に、他の疾患についても一通り検査をすると思いますので、初めは検査費用などがかかり大変ですが、適切な治療を行うために頑張りましょう。
その他に、犬の糖尿病の中には、未避妊のメスで発情や妊娠に伴って起こるタイプの糖尿病があります。
これは発情休止期や妊娠時に分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用によっておこります。
プロゲステロンは乳腺組織から成長ホルモンの産生を促し、妊娠を維持するための体の変化をおこしますが、このプロゲステロンと成長ホルモンの両方が強いインスリン抵抗性を示します。
つまり膵臓から正常にインスリンは分泌されているのですが、強いインスリン抵抗性によって血糖値が上昇し、糖尿病症状を示してしまうのです。
治療にはインスリン投与を行いますが、強いインスリン抵抗性によって治療がうまくいかないことが多く、根本的には避妊手術をすることが必要です。
避妊手術をした時点で膵臓にまだインスリンを分泌する能力が残っていれば、徐々にインスリン抵抗性が解除され、後にインスリン注射は必要なくなります。
逆に避妊手術をしないでいると、発情の度に糖尿病のコントロールが不安定になり、下手をすると命を落とすことにもなりかねません。
糖尿病になった未避妊のメス犬では、全身状態の良い時に避妊手術をしておくことをおすすめします。
犬の糖尿病では、糖尿病性の白内障が起こりやすい傾向があります。
白内障は眼の中の透明なレンズ(水晶体)が白く濁ることによって視覚に障害の出る病気ですが、糖尿病では白内障の発生率が高くなっています。
これは高血糖によって水晶体のタンパクが変性するためにおこります。
糖尿病性の白内障は通常両目に起こります。
進行して白濁が強くなると、物にぶつかったり、段差で転ぶなど、視覚に大きく影響します。
さらに進行して過熟白内障という段階になると、白濁した水晶体が融けだして、眼が再び透明に戻ることがありますが、この状態の時はブドウ膜炎や緑内障、網膜剥離を起こして失明する危険があるため、注意が必要です。
血糖値のコントロールがあまりうまくできていないと、より白内障を発症しやすくなります。
食事管理や適度な運動、適切なインスリン注射で白内障などの合併症をできるだけ抑えてあげましょう。
猫の糖尿病にはヒトでいうⅠ型・Ⅱ型のどちらもありますが、Ⅱ型糖尿病が多い傾向があります。
Ⅱ型糖尿病は膵臓からのインスリン分泌はあるものの、末梢組織でインスリンの効果が出にくい「インスリン抵抗性」の状態になっているために血糖値が下がらず、糖尿病を発症するタイプです。
インスリン抵抗性の発現には遺伝などの関与も示唆されていますが、肥満や運動不足、基礎疾患の存在、薬剤の投与、加齢などが関与しています。
この中で注目したいのが肥満です。
肥満傾向の猫で起こった糖尿病の中には、適切な食事管理とダイエットによってインスリンの投与が必要なくなる症例が多数あります。
しかし、インスリン抵抗性のある状態で長期間時間が経過すると、血糖値を下げるためにたくさんのインスリンを分泌していた膵臓の細胞が疲弊してしまい、最終的にはインスリンの投与が生涯必要な状態になってしまいます。
早期診断と適切な体重管理で、できるだけ早くインスリン抵抗性を解除してあげることが、生涯インスリン注射を必要とするか否かを分けることになります。
また、猫では膵炎が非常に多くみられます。
猫は慢性膵炎になっていても、軽度の食欲不振と時々嘔吐するくらいであまり顕著に症状を示さないことも多いため、気づかずに過ごしている猫は意外と多いのですが、膵炎によって膵臓の細胞がダメージを受けると、インスリンの分泌能が落ちて糖尿病をおこしてしまうことがあります。
膵炎は診断が難しい病気ですが、膵臓へのダメージが小さいうちに診断できれば、糖尿病の治療にインスリンが必要なくなる場合もあります。
犬の糖尿病では白内障になりやすいとお話ししましたが、猫でも糖尿病性の白内障は起こります。ただし、犬ほど多くはありません。
猫で特徴的にみられる症状としては末梢神経障害によっておこる蹠行です。
犬や猫は通常つま先立ちで歩いていますが、糖尿病によって末梢神経に障害が起こると、踵までべったりと床につけて歩く蹠行姿勢になってしまい、ジャンプなどがうまくできなくなることがあります。
糖尿病を治療していく上で最も重要なことは、血糖値をコントロールすることです。
インスリンの注射や食事療法、血糖降下剤の内服などで血糖値の変動を一定の範囲内に抑え、臨床症状や合併症の発現を抑制します。
糖尿病といえばインスリン、というイメージが強いかと思いますが、血糖値コントロールにとって一番重要なのはインスリンの注射ではありません。食事管理です。
まずは、食生活を見直してみましょう。
食事は量を決めて、毎回量ってあげているでしょうか?
また食事内容はバランスの取れたものになっているでしょうか?
食事にいくら気を付けていても、おやつをあげすぎてしまうと食事のバランスがとれているとは言えません。
食事内容についてですが、血糖値の上昇を穏やかにするように設計された処方食などが販売されています。
糖尿病の犬猫では、そのようなフードに切り替えることで血糖値管理がしやすくなります。
腎不全や慢性膵炎、甲状腺の病気など、基礎疾患があるために糖尿病食以外の処方食を食べている場合は、フードを無理に変更する必要はありません。
食べているフードの量を調整し、それに合わせた量のインスリンを投与することで、ある程度良好に管理できます。
状況に応じて、経口血糖降下剤でインスリンの働きを補助する治療をすることもあります。
血糖値の上昇を意識することは、糖尿病の治療としてはもちろんですが、予防的な意味合いとしても非常に重要です。
インスリンは食事を食べることが刺激となり、膵臓から分泌されます。
糖尿病にならないようにするためには、インスリンが過剰分泌されないように気を付けなければなりません。
早食い・ドカ食いや、高炭水化物食、食物繊維の少ない食事は血糖値の急激な上昇を招き、インスリンの大量分泌を引き起こします。
インスリンが大量に分泌される状態が続くと、インスリン分泌細胞は疲弊し、やがて分泌能が落ち、最終的にインスリンが枯渇する事態を招き、糖尿病を発症・進行させてしまうのです。
健康な犬猫であっても、将来的に糖尿病になるのを予防するためには、食事を摂っても緩やかにインスリンが分泌され、血糖値の変動があまり大きくない状態を保てるのが理想です。
血糖値の急激な上昇を抑えるサプリメントもあります。
血糖値が高めの傾向がある場合や、糖尿病の治療として食事管理がうまくいかない場合には、そのようなサプリメントを補助的に試してみてもいいかもしれません。
ただし糖尿病の治療中の場合は、サプリメントの使用についてはかかりつけの病院で相談してから行うようにしましょう。
インスリン抵抗性が高い状態、例えば肥満や糖尿病の基礎疾患となる副腎皮質機能亢進症などのホルモン疾患がある場合も、インスリンの過剰分泌が起こっています。
膵臓はインスリンを正常に分泌しているのに血糖値が下がらないために、さらにインスリンを分泌して血糖値を下げようとし、持続的な過剰分泌状態になってしまっているのです。
膵臓の細胞が疲弊してしまうと、結果としてインスリンの分泌量が落ち、生涯インスリンの投与が必要な状態になってしまいます。
肥満や基礎疾患がある場合は、それをしっかりと治療して、インスリン抵抗性を解除してあげる必要があります。
適度に運動することも重要です。
糖は筋肉の細胞でもエネルギーとして消費されますし、運動することで肥満を予防できます。
激しい運動でなくてもよいので、犬ではお散歩を日課にすること、猫はお散歩は難しいので、家の中でジャンプしたり遊べるような環境づくりをしてみましょう。
血糖値を気にするのは糖尿病になってから、というのがほとんどだと思います。
しかし、ヒトでは糖質や脂質の摂りすぎには日常的に注意喚起がなされていることを考えると、犬や猫も例外ではありません。
普段から血糖値や肥満予防に意識を向けることが、病気の発症予防と健康増進につながります。
今ではペットの健康のために様々なサプリメントなども開発されています。
それらを補助的に上手に使うことも、ペットに元気で長生きしてもらうために役立つかもしれません。