食欲不振は様々な病気・病態の初期症状として最も多く認められる症状です。
原因として考えられる病気には、以下のようなものがあります。
・消化管の異常
・口腔内疾患
・腎臓病や肝臓病などの内臓疾患
・内分泌疾患(糖尿病やアジソン病など)
・外傷
・感染症
・循環器疾患
・呼吸器疾患
・神経疾患
・腫瘍性疾患 など
こうしてみると食欲不振が見られる場合には、ありとあらゆる病気の可能性があるということがわかりますね。
しかし原因となっている病気によっては同じ食欲不振でも症状の現れ方が違ったり、他の症状を伴っていることがあります。
以下のような違いや症状がないかどうか、少し気を付けてみてみましょう。
〈食欲不振の現れ方の違い〉
・昨日まで食べていたのに急に食べなくなった(急性の発症)
・長期間の間に少しずつ食が細くなった
・好きなものだけを少量食べることができる
・食事に全く興味を持たない
・食べようとするが食べられない(口に入れるが出してしまう)
・フードの臭いを嗅いでオエッとする
・水も飲まない
〈他にみられる症状の一例〉
・吐き気や嘔吐
・便の変化(軟便、下痢、血便、便の色の変化など)
・尿の変化(尿量が増えた・減った、色がとても濃い黄色、血尿、尿が出ないなど)
・飲水量の変化
・呼吸が早い
・鼻汁が出ている
・体が熱い(発熱)
・体の一部が腫れている
・口臭がきつい
・よだれを垂らしている
これらの情報は診断をするうえで重要なヒントになります。
気づいたことがあればメモしておき、病院を受診した際には伝えるようにしましょう。
食欲不振は様々な病気でみられる症状ですが、若い犬猫と高齢の犬猫ではその原因となる疾患には異なった傾向が見られます。
免疫の未熟な1歳未満の犬猫でみられる食欲不振の原因としては、感染症によるものが比較的多くみられます。
代表的なものは以下の通りです。
・細菌感染(クラミジアなど)
・ウイルス性疾患(ケンネルコフ、猫カゼ、パルボウイルス感染症など)
・寄生虫感染(線虫、条虫、原虫など)
クラミジアやケンネルコフ、猫カゼ症状を起こす感染症では上部気道に炎症を起こし、鼻汁や咳などの呼吸器症状に加え発熱を伴うことがあり、多くの患者で食欲が低下してしまいます。
特に猫は鼻がつまって匂いを感じなくなるだけでも食欲が減退してしまうことがあります。
また猫カゼの原因となるカリシウイルス感染症は口腔内に潰瘍を形成することが多く、潰瘍が痛くて食べられないというケースも多くみられます。
パルボウイルス感染症は抵抗力の低い子犬や子猫に感染すると消化管に激しい炎症を起こし、血便、嘔吐、発熱、白血球減少症などを起こす病気です。
早い段階で適切に診断して積極的に治療を行えば回復することもありますが、子犬や子猫では致死率も高い怖い病気です。
寄生虫感染症では食べているのに痩せてしまうことが多いのですが、下痢や軟便などの便の変化のほか、腸に炎症を起こすと食欲低下が見られることがあります。
寄生虫の種類によっては、便の中や吐物の中に寄生虫の虫体が認められることもあります。
これらの病気は、病院で便検査を含めた健康診断を受け、適切な時期に予防接種を受けることで発症を予防することができる病気です。
食欲が旺盛で成長のために特にたくさんの栄養が必要な子犬・子猫の時期に食欲不振が続くと、成長に悪影響を与えるだけでなく、低血糖による命の危険も伴ってしまいます。
ご飯を食べない時にはできるだけ早く病院へ連れて行きましょう。
高齢の犬猫がご飯をあまり食べないという場合には、子犬や子猫の場合とは全く異なる原因を考えます。
多くの場合は加齢によって内臓の機能低下が起こっていることが原因で、代表的なものには腎臓病、肝臓病、心臓病などの内臓疾患が挙げられます。
また、口腔内の疾患や腫瘍性の疾患も高齢期には非常に多く見られます。
・腎臓病
腎臓病は腎臓の機能が低下することで体の老廃物を体から排出できなくなってしまう病気です。
最もわかりやすい症状は水をたくさん飲むようになり、尿量が多くなるという変化です。
進行すると吐き気や下痢、貧血などを起こします。
・肝臓病
肝臓の病気は初期症状がわかりにくいことが多く、なんとなく食欲が落ちているというのが初期症状のことがあります。
尿や粘膜の色が黄色っぽくなる黄疸がみられる場合にはすでにかなり進行してしまっていることがあるため、食欲不振のサインを見逃したくない疾患の一つです。
・心臓病
心臓病では、心臓の機能が低下するために全身に血液をうまく送れなくなってしまいます。
なんとなく疲れやすい、寝ていることが多くなった、食が細くなったなど、年を取ったせいで起こっていると思われている変化が実は心臓病の初期症状のことがあります。
進行して呼吸が荒い、咳を頻繁にする、舌が青っぽいなどといった顕著な変化がみられるようになると、苦しさから食欲がさらに低下してしまうことがあります。
・口腔内疾患
食べようとした時に口を痛がる様子が見られる場合には、口腔内のトラブルが原因となっている可能性が高くなります。
最も多いのは歯周病ですが、中には重度の口内炎や口腔内の腫瘍(悪性黒色腫や扁平上皮癌など)が形成されていることもあります。
口腔内に異常がある時には、口臭がきつい、涎を垂らす、涎に血が混ざる、口を気にしてこする、食べるときに痛がって鳴くなどの症状の他、食べ方に変化が現れます。
硬いものは食べないが柔らかいものは食べる、首を傾けて片方の顎だけで食べているなどといった場合には、一度口の中をチェックしてもらいましょう。
口腔内にできる腫瘍には、骨にまで浸潤して骨を溶かしてしまう悪性腫瘍も存在します。
早期発見できれば切除可能ですが、発見が遅れると治療が難しくなる場合もありますので、いずれにしても早めに病院へ連れて行きましょう。
・腫瘍性疾患
口の中に限らず、高齢になると様々な部位の腫瘍性疾患の発生が増加します。
未避妊の雌犬・雌猫で圧倒的に多いのは乳腺腫瘍で、腫瘍が小さい内はしこりとして触れるだけで体には体調不良などを起こすことはあまりありません。
しかし、進行して腫瘍が巨大になったり、腫瘍が自壊(表面が傷ついて破れ、腫瘍から出血している状態)してしまった場合には、慢性的な出血や傷口からの感染、腫瘍による悪液質、時には転移病変などによって全身状態が悪化して食欲低下が起こります。
乳腺腫瘍だけでなく、リンパ腫や肥満細胞腫、血管肉腫、消化管の腫瘍、肺の腫瘍、脳腫瘍、骨の腫瘍など、高齢期には様々な腫瘍が発生することがあります。
いずれの腫瘍も早期発見が根治につながりますので、体の小さな変化を見逃さず、早期発見に努めましょう。
年齢に関係なく起こる食欲不振の原因もあります。
・異物の誤食
最も多いのは、異物の誤食です。
壊れた動物用のおもちゃ、子供のおもちゃの部品、果物の種、トウモロコシの芯、骨など消化しにくい大きな食べ物、飼い主さんの薬や中毒性物質の誤食など、犬猫の口に入るサイズのありとあらゆるものは誤食の原因となり、消化管の通過障害から急性の食欲不振がおこります。
消化管の完全閉塞を起こすような異物やひも状の異物の場合には、腸の壊死や穿孔を招き命に関わることもあります。
誤食は起こらないように予防することが最も重要ですが、起こってしまった場合にはより迅速に対応することが必要です。
好奇心旺盛な子犬・子猫期から比較的若い動物で起こることが多い傾向がありますので、特に小物の管理には気を付けましょう。
・細菌感染
細菌による感染症もどんな年齢でも起こりうる疾患です。
感染症と一口に言っても多くのケースがありますが、代表的なものとしては動物同士の咬傷事故や散歩中の外傷、マダニなどの寄生虫に刺されることによる感染症(ライム病など)、尿路感染、未避妊の雌では子宮蓄膿症などがあります。
感染が起こった場合には食欲不振の他に発熱や感染部分の腫れ、痛みなどが起こり、子宮蓄膿症では膿性のオリモノがみられたり、腹部の急激なふくらみ、多飲多尿、嘔吐などといった症状も見られます。
感染に対しては適切な抗生物質による治療と感染巣に対する処置(消毒や排膿、手術)が必要になります。
・熱中症
夏に起こりやすい食欲不振の原因として、夏バテや熱中症が挙げられます。
熱中症といえば高体温、脱水症状などが有名ですが、軽度の熱中症ではそこまでの高体温にならなくとも食欲不振や元気がないといった症状だけが現れる場合もあります。
特に肥満傾向の犬猫や、短頭種の犬猫、高齢動物や子犬・子猫は熱中症に陥りやすいため、室温管理に気を付け、水分補給をしっかりと行い、お散歩に行く時間は朝方早めの時間、あるいは日が沈んでからにするなど、熱中症にならないように万全の対策をとりましょう。
今回は食欲不振を起こす原因の中でも比較的多くみられる代表的なものを挙げましたが、他の内臓疾患や内分泌疾患、免疫疾患、外傷などあらゆる疾患に伴って食欲が低下することがあります。
いずれの場合も診断のためにはできるだけ早く病院を受診して検査を受けることが必要です。
『ご飯を食べない』は動物が出している体調不良の重要なサインですので、軽視せずに早期診断・早期治療につなげましょう。